――様々な表現分野でご活躍なさっている東直子歌人。東直子様は、どのようなきっかけで短歌を始めたのでしょうか?
姉の知人が歌人の加藤治郎さんでした。彼の歌集を読んで、口語で書かれた現代短歌ってこんなに自由で、おもしろい表現ができるのか
と思って興味を持ちはじめたときに、購読していた雑誌「MOE」で短歌の公募がはじまり、自分でも作って投稿をはじめたことがきっかけです。
短歌に出てくる主語は基本的に作者であるという「私性(わたくしせい)」という共通理解が短歌にはあって、日常生活の細部をリアルに詠むタイプの歌人が多いのですが、私の場合は、日常の出来事を起点として、想像の情景を広げて内容のものが多いです。
あまりそういったことを深く考えながら創作しているわけではないのですが、できあがった作品が、他の人のものではなく、自分らしい表現であることを目指しています。といっても「自分だけがわかる」ようにはならなないように、伝わる言葉を模索しています。
伝統をふまえつつも、柔軟で新鮮な表現の作品を詠み、かつ、他の人の作った先鋭的な作品もきちんと読み、評することのできる歌人でありたいと思っています。
短歌というと、伝統的な定型詩としてかまえて受け取られる方がいるのですが、現代短歌はそれぞれの固有な表現の実現を目指していますので、 固定概念にしばれることなく、自分を解放するように言葉で世界をつくることを楽しんでいただければ、と思います。
これまでキャリアを積まれてきた方は、それをいかして、築き上げた技術をさらに磨くとともに、ときには初心の頃を思い出しつつ作られるといいと思います。初期作品の中に、忘れかけていたご自身の感覚が眠っているかもしれません。
――最後に、東直子歌人から和歌の浦短歌賞に応募するすべての方へのメッセージをお願いします。
和歌山のという場は古代から人々の祈り地でした。短歌は神様に言葉をささげる装置でもありますので、ひとりひとりの胸の中にある祈りを、五七五七七七の形で引き出していただけたらと思います。一方で、個人的な心情を盛り込む器として、ご自身の心にといかけながら、それぞれの作者にあった文体と言葉を模索した、新しい短歌に期待しています。
歌誌「かばん」所属。現代歌人協会理事。第7回歌壇賞受賞。短歌の他、小説・エッセイ・戯曲・絵本など活躍の場を広げている。『十階』『とりつくしま』『鼓動のうた』『短歌の不思議』『晴れ女の耳』『七つ空、二つ水』など著書多数。2009〜2011年「NHK短歌」選者、2011年より歌壇賞、2014年より角川短歌賞、現代歌人協会賞選考委員。現在「公募ガイド」で短歌等高欄「短歌の時間」連載中。